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Afa Lee展 パンとバターのアート

Afa Lee展の招待状を受け取り、柔らかなパンを手にした瞬間、微かにチョコの香りとパンくずが混ざり、本物か偽物か判然としなかった。

昨年の花の季節にそのまなざしに惹かれて作品世界に入った李思汝(りしじょ / アファ・リー)と、食物スタイリストのグロリア・チョン(Gloria Chung / グロリア・チョン)が、新年を迎える頃に上環の士丹頓街に期間限定のパン店を開いた。店名は「A&G Boulangerie」。本来の展示空間を〈家のようなパン屋〉に化粧した今回の試みだ。

ではこのパンを手に、パンが焼き上がる前の時間へ戻ってみよう。

Afa Lee展 パンと日常

「A&G Boulangerie」は周囲に飲食店やカフェが並ぶ一角にある。入口のロゴはアファの特徴的なドールを七〇〜八〇年代風にアレンジしたもので、扉を開けるとコーヒーの香りが漂う。

ただし視覚にはどこか違和感がある。パンが棚に並ばず壁や照明に取り付けられ、調理器具や未開封の材料が展示されているのだ。外見はパン屋、機能はギャラリーという趣向だ。

開幕以来、子どもから大人まで多くが「新しいパン屋だ」と誤認して入ってくる。「家の食卓のような空間にすることで、観客の緊張感を解いて作品へ誘いたかった」と二人は語る。

「Food Art」は単なる盛り付けではない。食材を彫刻やインスタレーション、写真などで扱い、食に関する既成概念を美術的な視点で問い直す表現である。

セルビアのパフォーマンスアーティスト、マリーナ・アブラモヴィッチの言葉を借りれば、ギャラリーでパンを焼くことがアーティスト性を生む。文脈がものの価値を決めるという指摘だ。

A&G Boulangerieの展示風景、壁に取り付けられたパンのオブジェ

なぜパンを選んだのか。パンは長い歴史をもつ主食であり、西洋の宗教儀式では団結や象徴性を帯びる。それは日常と信仰の媒介でもあると二人は話す。

グロリアは「子どもの頃に慌ただしくかじったトーストの記憶が、人それぞれのつながりを作る」と語った。アファはバターとトーストを「完璧な組み合わせ」と呼び、その親しみを作品に織り込んでいる。

アファとグロリアのポートレート、展示空間の一部を背景に」 class=

台所からギャラリーへ

アファは過去十年にわたりバターとトーストに関心を寄せてきた。今回の展示はグロリアとの十年に及ぶ交流が契機となったという。

一方は食物スタイリスト、他方はアーティスト。領域は異なるが、二人の関係は十年の間に深まった。「JPS Galleryが自由にやらせてくれたことも大きかった」とアファは振り返った。

制作風景、パンのテクスチャを検証する場面

今回の共同作業では役割が逆転した面がある。アファがパン職人に扮し、生地と向き合う一方で、グロリアは食材を長時間維持する技術を展示のために応用した。両者の領域が交差することで新たな創造が生まれたという。

「日常の食材が展示に現れることで、観客がより身近に芸術を感じられると考えた」と二人は語る。食べ物が鑑賞の入口になる可能性を狙ったのだ。

「TOASTOUT」

展示の中心作の一つに《TOASTOUT》がある。韓国で生まれた造語「TOASTOUT」を着想源に、一週間の疲労度をトーストの焼け具合で表現した作品だ

グロリアは本物のパンを七段階の焼き色で再現し、アファが日付を書き添えた。展示方法は当初から議論が尽きず、色の順序や表示方法まで細かく詰めたという。

最終的に二人は、週の中で最も〈バーンアウト〉しやすい曜日を巡る議論を楽しんだ。「人によって土曜が最も疲れる、月曜がそうだという分かれが生まれた」と語り、来場者の共感を誘う作品になった。

バターの光環

やがて話題はパンからバターへ移る。二人にとってバターは単なる食材を超えた存在だ。作品制作の核であり、思い出や関係性をつなぐ媒介でもあるとのことだ。

アファは幼い頃にバターを単独で食べて吐いてしまった経験を語り、それが「バター君」というキャラクター化の動機になったと説明した。バターは他の食材と寄り添うことで真価を発揮するという観察から、作品が生まれた。

グロリアは家にある観音像をモチーフに、バターで作った観音像の3Dモデルを制作した。重量は約3キログラムに達し、温度や力加減の制御が大きな課題になったという。

バターで作られた観音像の展示、細部の造形が見える

信仰の核心

展示は宗教的な象徴にも踏み込む。香港には古くからの伝統宗教が根づき、街角には様々な神が祀られている。二人は信仰と日常の接点を本作で探ろうとした。

アファはカトリック校で学び、家庭では祖先崇拝や道教の影響を受けた複合的な宗教環境で育った。その経験が香の匂いや祭礼の記憶を呼び起こし、展示に深みを与えている。

祭壇の前に鏡を置いた意図についてアファは、「見る側が自分自身を省みる媒体にしたかった」と説明した。観音と向き合うことで来場者が自分の在り方を問い直す仕掛けである。

真偽のあいだ

会場を巡ると「本物のパンはどれか」という観客へのささやかな挑戦が随所に仕掛けられている。木彫や粘土で作られたパンが本物と見分けがつかない状態を生み、観客の思考を刺激する

代表作の《30-DAY LOVE LETTER》は木彫を中心とした三十点のパン作品で、アファの視覚日記でもある。制作過程では多くを作り直し、不安と喜びを反復して完成させたという。

驚きの発見もあった。本物のパンを観察用に保管していたところ、昨年八月以来変化が見られず、カビが生えなかったという。防腐剤や色素の影響も含め、時間と物質の関係について二人は思索を深めた。

作品の永続性を求めることは彼女たちの最終目的ではない。アファは創作は完成物だけでなく、制作過程の自己探求にこそ意味があると語った。

展示会場の全景、来場者が作品を観覧している様子

真と偽の区別は重要だろうか。バターを中心に据えた彼女たちの語りは、短命なものに対する愛着と、変化するものを受け入れる姿勢を示している

最後にグロリアは「Be Butter, my friend」と微笑んだ。日常の一片が芸術に化ける瞬間を、この展示は静かに見せている。

Executive Producer:Angus Mok
Producer:Mimi Kong
Interview & Editor:Louyi Wong
Videography:Alvin Kong
Video Editor:Alvin Kong
Photography:Kin Wai
Wardrobe:MARIMEKKO(Afa Lee)

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