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レトロフューチャーで彩る個展レビュー

レトロフューチャーが際立つイラストはSNSで広く拡散されるが、強い個性がなければすぐに忘れられてしまう。 Isaac Spellmenは大学卒業後まもなく専業作家として活動を始め、独自のレトロ感と未来観を融合させた作風で注目を集めた。

彼はファンアートの投稿を出発点に、やがて著名アーティストの静止画や動く宣伝用の作画などの仕事を受けるようになった。レトロフューチャー的な美学は、ファッションブランドや音楽関係、地元メディアからも支持を得ている。

現在、 Isaac Spellmenは個展「 Lust For Life」を開催しており、本稿ではその展示世界を取材した。作品には過去から未来までの美意識が溶け込み、独特の夢想空間を描き出している。

「現実でも虚構でも、観る人が自動的に魔法世界に入れるようにしたい」

魔法やSFを描く映画やドラマは、幼少期から私たちに超自然や不思議な力のイメージを植え付ける。 Isaac Spellmenはこうした物語から刺激を受けたと語る。

彼は特に『ハリー・ポッター』や『オズの魔法使い』、近年の『Chilling Adventures of Sabrina』などを参照に、魔女や超自然の要素を自身の世界観に取り込んでいる。

『Chilling Adventures of Sabrina』の主人公サブリナ・スペルマンに因み、自らに魔法史を感じさせる姓を付けたのがアーティスト名の由来だと述べた。

また占いやタロットにも造詣があり、感覚を開く行為が創作に影響しているという。彼は人の見えないエネルギーや色を感じ取り、それをビジュアル化する能力を自認している。

Enchanted Forest の作品画像
《Enchanted Forest》 Isaac Spellmen

女性性とポップカルチャーが結ぶ美学

作品の多くは女性を主題にしており、音楽や映画を通じて育まれた欧米の視覚文化に影響を受けている。幼少期に母親が流していた洋楽や映画が美意識の基盤になったという。

なかでもレディー・ガガは彼の最大のミューズだ。彼はレディー・ガガの登場が自身の美学を形作ったと語った。レトロフューチャー的な誇張された表現や色彩感覚の源泉になっている。

学生時代にSNSで共有したファンアートが縁で、当時大学2年生だった彼はレディー・ガガのチームからスーパーボウル公演のための動くビジュアル制作に招かれた。

当時の経験について彼は「虚栄心は満たされたが、それがすぐに大きな助けになったとは言えない」と振り返った。早く成功していたら対処できなかった仕事もあっただろうとも語る。

アーティストのポートレート画像

その後もSNSで作品を発表し続け、仕事の依頼は増えていった。レトロフューチャーを軸にした明確なスタイルを確立したことが、評価につながったという。

デジタルで描く高飽和の“古き良き時代”

普段はiPadを主な制作ツールとして用いる。かつては水彩やアクリルも使ったが、色数の無限性を求めてデジタルへ移行したと説明した。

完成後にPhotoshopで色調を整える工程を経るため、作品は高い彩度とオレンジ寄りの暖色系のトーン、顆粒感を伴う「古写真」のような質感を持つ。

Lust for Life 展の展示風景
《Lust for Life》展覧の一場面

彼は自身の作風を「レトロフューチャリズム」と呼ぶ。過去の人々が想像した未来像を現代の視点で再構築し、過去と未来が混在する平行時空を描いている。

ファッションへの関心も強く、絵画の登場人物には年代感のある装いを施す。ヘプバーン風のドレスやパールのアクセサリーといったモチーフが絵の中で鮮やかに主張する。

「絵の中にユートピアを作りたい」

ただ単にノスタルジアを賛美するわけではない。彼は過去の良い要素を取り出しつつ、当時の思想や制度の問題点は取り除いていると説明した。

展示作品の場面写真

理想とするユートピアは誰もが満たされ、自由に表現できる場所だ。彼は絵を通じて「比較的争いの少ない美しい世界」を作りたいと語った。

個展は「年間の小さな総括」

今年11月、彼は Ztylezと協力し、外壁の大作と個展を同時に発表した。外壁はスタッフと共に約300時間を費やし、長さ15メートル、高さ5.8メートルの壁画を完成させた。

壁画は『グレート・ギャツビー』に着想を得た絵柄で、華やかなドレスやシャンパン、舞踏会の情景、白馬やタイガーといった誇張されたモチーフが並ぶ。

壁画制作の様子

作品の主題について彼は「奢侈だけを描きたいわけではない。現実的には皆が裕福ではないが、それでも美しいものを鑑賞する権利はある」と述べた。

個展『 Lust For Life』では、音楽やファッション、内面の探求をテーマにした15点の新作が並ぶ。20年代から80年代の復古的な美学と現代のポップ要素が交錯する構成だ。

展覧会の会場写真
《Lust for Life》展覧

この一年は制作の連続だったと彼は振り返る。書籍の装画やブランドとのコラボ、アートフェア出展、そして今回の大規模壁画と個展と、制作の幅が広がった年だった。

彼はまた、イラストレーションが従来の芸術市場では周縁に置かれてきたことを指摘した。だが表現の幅が広がった今、イラストレーションも独立した思想や感情を伝える媒体として成立すると語った。

展示風景の写真

展示は下記会場で公開中だ。会場は香港の荃灣(ツェンワン、Tsuen Wan、香港九龍の地区)にあるアートスペースとなる。見学は週末の予約制で、入場は無料だ。

Isaac Spellmenの壁画は2022年2月28日まで、個展『 Lust For Life』は2022年1月2日まで Ztylez Art Spaceで公開される。開場は土日、12時から19時までだ。

<クレジット>
Executive Producer: Angus Mok
Producer: Vicky Wai
Editor: Ruby Yiu
Videography: Andy Lee
Photography: Andy Lee, Timmy Cheung
Video Editor: Andy Lee
Designer: Edwina Chan
Location: Ztylez Art Space
Special Thanks: Isaac Spellman

詳しい情報と予約はZTYLEZの公式ページを参照されたい。会場で見ることで、レトロフューチャーの世界がより立体的に伝わるだろう。

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