Skip to content Skip to sidebar Skip to footer

台湾 修復師・蔡舜任が語る修復の現場

台湾 修復師の蔡舜任(さい・しゅんにん / ツァイ・シュンレン)は、芸術を科学で守る修復の現場で活動している。彼は欧州での修業を経て台南に拠点を置き、文化財の保存に取り組んでいる。

蔡舜任の作業風景と修復中の作品

アジアでは美術修復は目立たない仕事である。台湾でも水墨画や陶磁が中心で、西洋油彩の修復は欧州に技術が集まりがちだ。

2015年に台北で開かれた展覧会で、来場者の不注意により17世紀イタリア画家パオロ・ポルポラ(Paolo Porpora)の大型油彩が損傷したことがある。修復は当時現地で活動していた蔡舜任が担当した。

蔡舜任は欧州の修復家ステファノ・スカルペッリ(Stefano Scarpelli)の唯一の台湾弟子である。ウフィツィ美術館(Uffizi)でも修復に携わった経歴がある。

修復後の作品が並ぶ工房の様子

修復の現場と作業環境

蔡舜任の修復拠点は台南市にある。台南は歴史が豊かな街で、彼はそこで作業環境を整えた。

台南の修復工房内部、換気設備や作品が並ぶ

工房は温度と湿度の管理を重視している。大型の換気管や専用棚が設けられ、素材と道具は整然と保管されている。

工具車と修復道具が並ぶ作業場の写真

修復手法と哲学

修復は調査から始まる。作品の様式や材料を大量の資料で照合し、科学的な検査で素材を分析する。

加固や充填、そして最も難しい清掃を経て作業は進む。蔡は「清掃をやり過ぎると元に戻せない」と強調した。

細かな作業を行う修復師の手元の写真

彼は修復の評価について明快に述べる。「芸術修復に100点はない」というのが信条だ。最良を尽くすことが目標である。

創作性と技術の融合

元はアーティスト出身の蔡は、修復における創作性をこう説明した。方法を探すこと自体が創作であるのだという。

素材や媒体が多様化する現代芸術に対し、修復師は学際的な知識を結集して対応する必要がある。AIは補助にはなるが代替はしないと語った。

修復作業中の細部を拡大した写真

台湾での教育と人材育成

蔡は台南でTSJという修復チームを設立した。目的は台湾の修復技術の基盤を整えることである。

彼は欧州で得た経験を教育に活かそうとしている。課題は制度の欠如、管理や基準の不在だと指摘する。

試験用のパネルや素材見本が置かれた作業台

若手の実地訓練こそが最良の教育だと考え、蔡は透明性を持って基準を議論する場をつくりたいと語る。基準の公開化を医療の学会に例えている

台湾と香港の修復事情の比較

蔡は香港の修復体制を評価している。香港は収蔵品が絞られているため資源配分が集中しやすいという。

香港の施設や大規模なオークション、展覧会が集積する点を優位と見なす。西九龍やM+といった基盤整備も評価した。

台湾と国外での修復活動を示す写真コラージュ

百廟門企画と地域文化の保存

蔡は「百廟門企画」を立ち上げた。台南の廟宇にある門神画などを修復し、地域の美意識を育てるプロジェクトである。

廟宇は生活に近い大規模な美術作品だと彼は言う。そこから一般の人が美に触れる機会を増やす狙いがある。

廟の門神修復作業の様子

プロジェクトは実地での人材育成にも役立つ。実戦経験が次世代の修復師を育てるとの考えだ。

蔡はチームの重要性を繰り返し語った。個人の名声よりも、チームと基準を国際舞台へ出すことを優先している。

TSJ修復チームの集合写真

彼は今後も十年、さらに先を見据えている。「私たちの標準と舞台は国際だ」と力強く述べた。

エグゼクティブプロデューサー: Angus Mok
プロデューサー: Mimi Kong
取材・文: Kary Poon
写真: Wei

ビデオ編集: Kason Tam
デザイナー: Michael Choi

EDITOR'S PICK編輯精選