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石家豪展:当代工筆の新しい風

石家豪展は、中国伝統の工筆画を現代の香港文化へと再構成する試みを提示している。石家豪(せき かごう / ウィルソン・シー、Wilson Shieh)の精密な筆致が伝統とポップを結び付ける様子が目を引く。

工筆画と言えば筆法の精緻さで知られる山水花鳥や人物肖像が想起される。だが多文化が交錯する現代では、その手法が新たな表現へと変奏している。

香港美術館(香港の公立美術館)、香港文化博物館(香港の文化史・民俗を扱う博物館)、M+(M+ 視覚文化博物館、香港の現代美術館)や小規模な画廊を訪ねると、しばしば石家豪の当代工筆作品が見つかる。街のランドマークや映画の一場面が、細密な衣裳表現へと転じている。

石家豪の制作は工筆を基盤としながら、素描、油彩、コラージュ、インスタレーションへと広がる。題材は地元文化に根差し、人物と衣裳が繰り返し登場する。

石家豪展での制作姿勢

「私の性格は写意向きではない」と石家豪は語る。工筆は細やかな筆さばきと根気を要求するからだ。その慎重さが独自の作風を生んだと本人は振り返る。

石家豪の制作風景イメージ

美術課程では「梅・蘭・菊・竹」や唐装の仕女画を学んだ。長い臨摹により古典の細描を評価するようになったという。だが現代の題材にこの手法を応用する発想が、作風の転換点となった。

《香港最高五幢大樓》作品画像
《香港最高五幢大樓》水墨、アクリル、絹 90 x 115 cm 2011 石家豪

以後、伝統的な宣紙や絹を用いて現代のポップな主題を描く道を歩み始めた。題材は性別や服飾、香港映画や音楽など多岐にわたる。どれも地元の記憶を起点にしている。

代表作の一つが「建築シリーズ」である。中環の中銀、IFC、怡和大廈などを衣裳に見立てた服飾デザインは印象的だ。高層ビルが華やかなイブニングドレスへと変貌する。

回顧展「雜碎 2008-2022」の構成

今回のJPSギャラリーでの回顧展「石家豪:雜碎 2008 – 2022」は、約14年の代表シリーズを網羅する。会期は2022年10月28日から11月27日までである。過去作と新作を並べ、制作の変遷を見渡せる構成だ。

《秋天的童話》部分画像
《秋天的童話》(部分)アクリル、ボード、コラージュ、色鉛筆 50 x 75 cm 2022 石家豪

展覧会名の「雜碎」は「チョップスイ」つまり雑多な寄せ集めを意味する。展示作品の多様性を表すと同時に、香港の共同記憶を掬い上げる意図がある。

会場では代表作《秋天的童話》を起点に、映画の一場面を再現したインスタレーションも見られる。来場者が「茶客」として写真を撮れる演出が施されている。

展示のインスタレーションイメージ

古今・東西の対立を作品に重ねる

石家豪は自作を「古と今、中と西が混在する作品」と位置付ける。意図的な対立の併置が、新しい文化的な言語を生むと考えている。その混淆こそが作品の遊び心と精緻さを両立させる要因だ。

《一個男人一個女人》作品画像
左:《一個男人一個女人》ボード、コラージュ 36 x 36 cm 2010 石家豪 右:《一個男人一個女人》油彩 41 x 51 cm 2010 石家豪

工筆と流行文化のmix and matchは、人物を中心とする表現へと自然に広がった。服飾は単なる見た目以上に、階級や文化の記号を担うと考える。

《四季女人》《四季男人》作品画像
左:《四季女人》色鉛筆、ボード 34 x 49 cm 2015 石家豪 右:《四季男人》色鉛筆、ボード 34 x 49 cm 2022 石家豪

「四季」シリーズでは同一の肖像に季節ごとの装いを与える。これは消費されるファッションを文化的時間軸へと置き換える試みだ。

《全宇宙女生大同萌》作品画像
《全宇宙女生大同萌》アクリル、ボード、コラージュ 50 x 100 cm 2012 石家豪

《全宇宙女生大同萌》では、香港の多様な制服文化を「校服図鑑」として描いた。ローカルな細部を掬い上げ、記録として保存する意識が感じられる。

展示風景イメージ

香港の共同記憶を絵画化する

展覧会では張愛玲(ちょう あいれい / アイリーン・チャン)、周潤發(しゅう じゅんぱつ / チョウ・ユンファ)、張曼玉(ちょう まんぎょく / マギー・チャン)、梁朝偉(りょう ちょうい / トニー・レオン)、鄧麗君(とう れいくん / テレサ・テン)など、香港を象徴する人物像が登場する。作品はそれらを多義的に再提示する。

張愛玲シリーズの作品画像
左:《色戒(張愛玲シリーズ)》色鉛筆、ボード、コラージュ 60 x 40 cm 2009 石家豪 右:《傾城之戀(張愛玲シリーズ)》色鉛筆、ボード、コラージュ 60 x 40 cm 2009 石家豪

また「カセット」シリーズでは、黃霑(こう さん / ウォン・チム)の歌詞集や張國榮(ちょう こくえい / レスリー・チャン)、梅艷芳(ばい えんほう / アニタ・ムイ)、許冠傑(きょ かんけつ / サム・ホイ)、羅文(ら ぶん / ローマン・タム)ら70〜90年代の楽曲を内包する。

石家豪は記憶の視覚化を意図する。思い出を「消化しやすい図像」に変換することで、多くの観客に共鳴を促してきた。

《黃霑詞選》作品画像
《黃霑詞選》油彩 80 x 120 cm 2019 石家豪

創作と保存の両立をめざして

石家豪は香港の急速な都市変化を踏まえ、古い文化の保存意識の高まりを指摘する。古きを尊重しつつ新しい感覚を注入することが必要だという。作品は保存と再創造の両面を志向している。

展示図録や資料のイメージ

2008年以降の活動は20年以上に及び、作品は主要美術館に所蔵されてきた。それでも石家豪は学び続ける姿勢を崩さないと語る。展覧会はその過程を公開する場でもある。

記者の取材の最後に、石家豪は来年の新作展の予定を明かした。関心がある読者はJPSギャラリーで直接作品を確認してほしい。会場は中環(セントラル、香港島の商業地区)のJPSギャラリーである。

「石家豪:雜碎 2008 – 2022」
日程:2022年10月28日〜11月27日
時間:11:00〜19:00
会場:JPS Gallery 香港 中環(セントラル)皇后大道中15号 置地広場中庭2階 218-219号舖

Executive Producer: Angus Mok
Producer: Mimi Kong
Interview & text: Ruby Yiu
Videography: Andy Lee, Kason Tam
Photography: Kris To
Video Editor: Andy Lee
Designer: Kris To
Location: JPS Gallery
Special Thanks: Wilson Shieh

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